ちいさいいきもの
私の実家では犬を飼っている。
私が大学3年生の時に飼い始めた。
その子は母の知り合いが飼っていた犬で、引っ越しにより飼えなくなったところを引き取ったらしい。
私は犬が苦手だ。
幼稚園生の頃、追いかけ回された挙句にお尻を噛みつかれるという恐ろしい出来事によって、見るのは好きでも近づけなくなってしまったのだ。
私が大学進学を機に実家を出た後、家にいる両親が心配だった。
2人で会話はあるのだろうか、ちゃんとやっていけるのだろうか。
心配しているのは両親も同じだろうが、時々家にいる両親を思い出してはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ心が痛んだ。
ペットでも飼えばいいんだけどなあ。
と思うようになったのはいつだったか。
何度か両親に言ったことがあったが、いきものを飼うというハードルは高い。
入学してから3年が過ぎようとしたある日、母から「家族が増えました」という文章と共に写真が届いた。
白くてふわふわしたかわいい犬だった。
驚いた。本当に驚いた。
犬が我が家にやってきて初めて私が実家に帰った日、お前は誰だと言わんばかりに吠えられた。
犬がいるリビングに入れず、ドアの隙間からジャーキーをあげながら不審者ではないことを伝えた。
我が家にやってきた犬は、前の飼い主がしっかりしつけていたので人間を噛むことはないし、とても人懐っこい。
吠えているのは威嚇ではなく遊んでくれという合図だった。
かわいい。
白くてちいさくてふわふわしたこのいきものが、とてもかわいい。
お手と言っても気が向かないとやらない上に、差し出した手に頭を載せて寝始めるような気まぐれっぷりだがかわいい。
両親もとても可愛がっていて、嬉しそうに遊んでいる。
犬がやってきて何度目かの実家の帰省の日、犬と2人きりになった。
もう吠えられても怖くないし、2人で遊ぶのにも慣れた。
というか、犬に会いたくて実家に帰っている側面がある。
そんなかわいい犬を撫でながら、
「うちに来てくれてありがとう」
と気付いたら言葉にしていた。
犬に言葉が通じるわけもないのに、なぜか口走っていた。
言葉の雰囲気を察したのか、遊ぼうと言われたと勘違いしたのかわからないが、
犬は私の膝に飛び乗って来た。
このちいさいいきものと両親が、すこしでも長く一緒にいられたらいいなと思った。